#64 それ、本当に救急車?消防士が見ている現場のリアル

救急車って、サイレンを鳴らして走ってくるから「よっぽどヤバい人を運んでる」って思われがちなんですよね。まあ、そういうケースも確かにあります。でも、現実はというと――そうでもない出動がかなり多いです。

今回は、現場にいる消防士の目線で、

  • タクシー代わりの通報
  • 病院から「救急車で来て」と言われるケース
  • 軽症なのに救急車を呼ぶ理由
  • なぜ救急車が足りなくなるのか

このあたりをまとめて話します。結論から言うと、制度と認識のズレが原因だったりします。


「それ、タクシーでよくない?」と思う通報

正直に言います。現場では、

  • 歩ける
  • 会話できる
  • 痛みはあるけど我慢できる
  • 発熱はあるけど元気

こういう人の搬送、珍しくありません。

で、本人に聞くとだいたいこう返ってきます。

「自分で行くのが不安で…」

気持ちは分かります。でも、救急車は“不安解消サービス”ではありません。限られた台数で、本当に今すぐ処置が必要な人のために使われるものです。

タクシーや家族の車で行ける状態なら、そっちを選んだ方が、結果的に自分も早く診てもらえます。


「病院から救急車で来て」と言われる問題

これ、現場ではかなり多いです。

「病院に電話したら、救急車で来てくださいって言われました」

いやいや、ちょっと待ってと。

点滴もしてない、酸素もいらない、バイタルも安定。どう見ても緊急性が高いわけじゃない。それでも“救急車で”と言われる。

理由はシンプルで、病院側のリスク回避です。

  • 何かあったら困る
  • 自力で来て途中で悪化されたら責任問題

だから「救急車で」と言う。でもその結果、救急車が1台ふさがるんですよね。


軽症でも救急車を呼ぶ人が増えた理由

これ、個人のモラル低下だけの話じゃないです。

  • 高齢化
  • 独居世帯の増加
  • 夜間に相談先がない
  • 「様子見」が怖い社会

こういう背景が重なって、「とりあえず119」が増えている。

しかも日本の救急車は基本無料

無料だとどうなるか。使われます。これはもう、人間の行動として当たり前です。


救急車が足りなくなる本当の理由

「救急車が足りない」「到着が遅い」

そう言われることがありますが、理由は単純です。

出動してるからです。軽症でも。

1件の軽症搬送でも、

  • 現場到着
  • 観察・判断
  • 病院選定
  • 搬送
  • 引き揚げ

これで1〜2時間は普通にかかります。その間、その救急車は使えません。

つまり、

本当に命に関わる通報があった時、近くに救急車がいない

こういう事態が起きる。


「サイレンは鳴らさないでください」と言われる違和感

これも、かなり多いです。

「近所迷惑なので、サイレンは鳴らさないでください」

気持ちは分からなくもないです。でも正直に言うと、急いでほしくないなら救急車を呼ぶべきじゃない

救急車は“緊急走行”が前提の乗り物です。サイレンを鳴らさないということは、

  • 法定速度を守る
  • 交差点で一時停止
  • 一般車両と同じ扱い

つまり、急がないという選択です。

それでいて「早く来てほしい」「すぐ病院に連れて行ってほしい」と言われると、現場としてはかなり矛盾を感じます。

周囲に配慮したい、目立ちたくない。その気持ち自体は否定しません。ただ、

静かに、でも最優先で来てほしい

これは成り立ちません。

サイレンは迷惑をかけるための音じゃなく、命を守るために道を空けてもらう合図です。そこを拒否するなら、救急車ではなく別の手段を選ぶ方が現実的です。


「救急対応だと料金が高くなる」って本当?

これも、よく聞かれます。

「救急車で来たら、病院代が高くなるって聞いたんですが…」

結論から言うと、救急車に乗ったから高くなるわけではありません。高くなる理由は、病院側の“対応区分”にあります。


救急外来加算というものがある

病院が「救急対応」と判断した場合、通常の外来とは違い、

  • 医師
  • 看護師
  • 検査体制

を緊急モードで動かします。その分として、救急外来加算がつきます。

金額は内容や重症度によりますが、数百円〜数千円程度。

これは救急車で来たかどうかではなく、救急として診たかどうかで決まります。


夜間・休日・深夜は、そもそも高い

もう一つ大きいのがこれです。

  • 夜間
  • 休日
  • 深夜

この時間帯は、同じ診察内容でも時間外加算がつきます。

つまり、

夜に体調が悪くなって、救急外来を受診した

この時点で、料金は昼間より高くなります。

これも、救急車だからではありません。


選定療養費がかかるケースもある

最近よく話題になるのがこれ。

大きな病院(紹介状が原則の病院)に、
緊急性が低い状態で直接来院した場合
数千円〜1万円前後の選定療養費がかかることがあります。

これ、

  • 自分で来ても
  • 救急車で来ても

条件を満たせば請求されます。

「救急車で来たから取られた」と思われがちですが、
実際は病院の入口の問題です。


なぜ「高くなった」と感じるのか

  • 夜間
  • 救急外来
  • 大病院

この3つが重なると、

「救急車で来たら高かった」

という印象になりやすい。

でも実際は、

その時間・その場所・その対応だから高かった

というだけの話です。


民間救急・介護タクシーという選択肢

ここで、ぜひ知っておいてほしいのが
民間救急介護タクシーという存在です。

  • 歩ける
  • 座っていられる
  • 意識がはっきりしている
  • 医療処置をしながら搬送する必要がない

こういった場合、実は民間救急や介護タクシーの方が適しているケースが多いです。

費用はかかりますが、

  • 予約できる
  • 病院まで確実に行ける
  • 救急車を待たなくていい

というメリットがあります。

一方で、119の救急車は

  • 本当に緊急性が高い人
  • 今すぐ医療介入が必要な人

のために確保されるべきものです。

「お金がかかるから救急車」ではなく、
**「状態に合った手段を選ぶ」**という考え方が広まってほしいと、現場では思っています。


じゃあ、どうすればいいのか

答えはシンプルです。

  • 歩ける
  • 意識がはっきりしている
  • 呼吸が苦しくない
  • 出血が止まっている

この条件なら、まずは自力受診や相談窓口を考えてほしい。

もちろん、「迷ったら119」は間違いじゃありません。でも、本当に必要か一瞬だけ考える。それだけで、救われる命が変わります。

救急車は、誰かの“最後の切り札”です。

タクシー代わりに使われることで、その切り札が間に合わなくなる。

現場にいる側としては、ただそれだけを伝えたいんです。

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